法令のトリビア(2)―法令の公布とその方式(その2)

4 戦後の改革と公式令の廃止

 政府は、昭和21年3月14日、戦後の法制整備の一環として、「公式令に代わるべき法律の制定」を行う方針を明らかにし、政府部内で「公式法案」が検討され、昭和21年12月26日に「公式法案要綱」が作成されました。

 しかし、その後、法令の公布の形式及び手続は、政令により規定することができるとの見解の下に、上記の方針は変更され、昭和22年4月に「公文方式令案」という政令案が作成されました。当時は、法律案の国会提出や政令の制定については、連合国最高司令官総司令部GHQ)の承認が必要とされていましたが、同政令案に対しては、連合国最高司令官総司令部から、同政令案の内容は、本来法律で規定すべき事項であり、その各条項は、天皇の地位に関連して旧憲法の匂いが濃厚であるなどの意向が示されたため、意見の調整がつかず、成案が得られませんでした。

 そこで、政府は、当分の間の措置として、「昭和22年5月1日事務次官会議了承」に基づき、法令その他公文の公布は、従前のとおり官報をもってすることとしたのです。

 昭和22年5月3日、日本国憲法施行に伴い、「内閣官制の廃止等に関する政令」(昭和22年5月3日政令第4号)が施行されたことにより、「公式令」は廃止されました。これにより、法令の公布の方式について定める法令は、存在しないことになり、官報への掲載は、その法的根拠を欠くことになったわけです。

  その後、政府において、「公文方式法案」が作成されるなどの動きがありましたが、当時の政治情勢の下で、その制定には至りませんでした(以上の経緯につき、国立国会図書館・リサーチナビ「官報(法令情報)の調べ方」https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/post-510.php、小島和夫「法令の公布をめぐる現行法制」中央学院大学法学論叢 13巻1号, 159頁~164頁)

5 公式令の廃止後における法令の公布―公布は廃止後も従来どおり官報で

 しかし、公式令の廃止後においても、法令の公布については、法令上の根拠を欠いたまま、前記事務次官会議了承に基づき、公式令の廃止前と同様の方式、すなわち、官報への掲載によって行われており、現在に至っています。

 このような法令の公布に関する事実上の取扱いについては、官報への掲載の法的効力が問題となりますが、最高裁判所の判決は、法令の公布の時期が問題となった刑事事件の判決において、官報への掲載に法令の公布の効力を認めました(最高裁判所昭和32年12月28日大法廷判決・刑集12巻14号3313頁)。

 すなわち、同判決は、公式令が昭和22年5月3日に廃止された後は、法令公布の方法がなくなったのであるから、事実上国家の意志が国民に表示された時に法令の公布があったものと解すべきであるとの上告受理理由に対して、公式令廃止後の実際の取扱いとしては、法令の公布は従前どおり官報によってなされてきており、特に国家がこれに代わる他の適当な方法をもって法令の公布を行うものであることが明らかな場合でない限りは、法令の公布は従前どおり、官報をもって行われるものと解するのが相当であって、たとえ事実上法令の内容が一般国民の知り得る状態に置かれ得たとしても、いまだ法令の公布があったとすることはできないと判示して、法令公布は、官報によって行うのが原則的な方法であるとし、官報への掲載に法令公布の効力を認めました。その後の最高裁判所判例においても、この考え方が踏襲され、現在に至っています。
 このような最高裁判所判例の考え方によれば、法令の公布について法令上の根拠を欠いている現状でも、官報への掲載に法令の公布の効力が認められますので、実際上の支障は特に生じませんが、近年においても、法令の公布及び公文の方式についての通則的法制を速やかに制定し、整備しておくべきであるとの指摘があります(小島和夫・前掲「法令の公布をめぐる現行法制」168頁、169頁)。

6 法令以外の法規範の公布の方式

 終わりに、法令以外の法規範の公布の方式について述べますと、議院規則、すなわち、衆議院規則及び参議院規則については、天皇による公布の対象とはされていませんが(日本国憲法第7条参照)が、官報の国会事項欄に掲載するのが慣例とされています。また、裁判所においては、昭和22年9月19日、裁判所公文方式規則(昭和22年最高裁判所規則第1号)が制定、施行され、同規則では、最高裁判所規則には、年月日を記入し、最高裁判所と記載し、なお、末尾に最高裁判所長官が署名すること(第1条)、最高裁判所規則の公布は、官報をもってすること(第2条)などが明文で規定されています。
 一方、普通地方公共団体については、地方自治法16条4項が、条例の公布に関し必要な事項は、条例でこれを定めなければならないと規定し、同条5項がこの規定を普通地方公共団体の規則・規程に準用しているため、条例の公布については、一般に、地方公共団体の条例(公告式条例)が制定され、当該地方公共団体の広報への掲載などの方式が定められています(東京都公告式条例等)。

(完)
[弁護士 柳田幸三]